「藤井徹貫さんが、スタジオに遊びにきました。徹貫さんといえば、『TMN EXPO STORY』など、音楽関係の著作をたくさんモノにしている人物で、いつも面白い話相手になってくれます。久々会って雑談していると、話がインターネット方向に進み、今回のリニューアルなどの話になりました。で、その雑談をここに収録することにしました。興味のある方は、雑談ライブトークとして読んでみてください」
1996.5.24 小 室 哲 哉 ※TF=藤井徹貫 TK=小室哲哉 AM 04:06 MAY.24,1996 TF「世間では“5分会うのも難しい”とか言われてるけど、こうしてスタジオに遊びにくれば、一応は雑談にもつきあってくれるわけですね」 TK「世間で言われてることと事実は違うからね」 TF「今、小室哲哉の名前はモンスター化しちゃってるけど、会えば、いつもの先生って感じだなあ」 TK「昔から、ぼくがよく言ってたじゃない。雑談は大事だって。そこから企画が生まれることは多いから。これだってそうだし」 TF「小1時間ほど話してたら、『ここで二人だけで話してるのはもったいない』とか言われて。やっぱりオレと話す時間がもったなかったんだなって思っちゃいましたよ。」 TK「そんなことないよ。ただ、今、話してるうちに思ったわけ。インターネット使えば、今この話がリアルタイムで流せるんだなって。そういうスピード感がある情報がインターネットの利点だからさ」 TF「さっきの話だと、このPLANET TKはリニューアルするんでしょ」 TK「そういう、まだ誰も知らないような情報も、リアルタイムで流せるからね」 TF「すいません。リニューアルの話はまだ内緒でした?」 TK「全然。大丈夫。そのリニューアルのことも頭にあったから、この話をインターネットで送ろうと思ったんだから。ぼくの現実をどこよりも先に送るページも企画してて。それを1日でも早く動かしたかったから」 TF「他の人よりも早い“コムロ情報”を知ってるのは、ちょっとした自慢ですからね。焼きとりの屋台とかでも、若いサラリーマンが『今度コムロが○○するらしいぜ』みたいなので、話せるぐらいだから」 TK「焼きとりの屋台かあ………」 TF「もっとかっちょいいほうがよかったですか」 TK「別にいいけど」 TF「でも、インターネットから発信した情報が焼きとりの屋台まで届くのって結構ギャップがありますよね」 TK「ネットと屋台の間に既存のメディアが入ると、情報のスピードが極端に落ちるわけ。リアリティーもなくなるし。もしも、その若いサラリーマンが自分でここにヒットして、自分で収集した情報だったら、すごいことじゃない。朝、学校に行く前にヒットして、その話でお弁当の時間にもりあがる高校生がいたりとか。事実、いると思うよ。今は1日のヒット数が10万件を越えてるから」 >TF「1日10万なら、1カ月で300万件でしょ。それもすごい数ですよね。月刊誌で300万部売ってるところはないでしょ」 TK「ヒット数というのはちょっと難しいところがあるんだけど、重複してる人がいたとしても、数10万は軽く越えてる数字かもしれない」 TF「今もあるのかもしれませんけど、昔、どこの農家にも1冊はある“家の光”とかって雑誌があって、それが隠れたベストセラーとか言われてて。今の数字を聞いて、思い出しただけですけど」 TK「それだけの人が見てくれてるわけだし、間違いなくメディアとしては最先端なわけだから、ここでどこよりも早く自分のことを言いたいし、ぼくが言ってるぼくのことだから、絶対に間違いはないし、音楽の面でも新しい伝え方の可能性を持ってるから」 TF「小室さん的には、今のインターネットはマスメディアだと思ってますか。それとも巨大なサークル活動だと思いますか」 TK「ちょうど中間だね。去年の11月22日に試験的に始めてみたら、想像以上に好評でね。クリスマスの翌日ぐらいから、アメリカのサンディエゴにWEBサーバーを移して、そこから本格的に始まった感じだけど。今までの累積ヒット数は1000万件以上だから、決して小さいメディアではないよね。ある意味では“マスメディア”と言えると思うよ。なのに、数の多さとは逆行する感じで、情報的には非常にパーソナルなものになりつつあるのがPLANET TKだと思ってるけど。今まではマガジン的な要素も強かったけど、これからはもっとリアルにしていきたいんだ。ただ、ビジネスのことはまったく考えてないから。これで儲けようなんて思ってない。だからできるんだと思うよ」 TF「そのホームページごとで性格は違いますよね。マスメディアだったり、作品の発表の場だったり、ミニコミっぽかったり、情報源やデータベースだったり」 TK「それは当然。数だけとれば、ここはメディアだけど、近い将来は作品の発表の場になるかもしれないし。ぼく自身の気持ちを発表する場所にもなり得るし。今のインターネットはアメリカのケーブルテレビに近いかもね。CNNとかMTVはものすごいメディアになってるでしょ。でも、実際にロスとか行った人はわかると思うけど、それ以外のチャンネルもあるわけで。60チャンネルぐらいあるでしょ」 TF「ホームページをチャンネルにたとえたら、60じゃあ納まらないですもんね。数万チャンネル状態でしょ」 TK「数十万じゃないかな。だから、中には、ただの通信手段として使ってる人もいるだろうし。そのホームページを開いた人、それぞれでインターネットの意味は違ってると思うよ。ぼくも試験で始めた当時は、今とは違う捉え方をしてたから。前はもっとファンクラブっぽいイメージだった。それが次はマガジン的な捉え方になって、ぼく関連のアーティスト情報も扱うようになってきて。それは音楽雑誌っぽかったと思うし。で、メールとかの交換も始めてみたり、ここ数カ月のヒット数の動きを見てたら、これはどこかのラジオ局、テレビ局以上の影響力を持つものかもしれないって思って。だったら、もっとインターネットの特徴を生かしたメディアにリニューアルしてみようって思ったわけ。何度もヒットしてくれる人もいるわけで、その人も同じ情報をずっと見せられると飽きちゃうでしょ。それを自分でも感じてきた頃だったし。だから、もっとリアルタイムな動きが欲しくなってきてね。それで今日いきなり試してみようと思ったんだよ」 TF「インターネットの売りの中には“ヴァーチャル”ということも含まれてますよね。一瞬にしてシカゴやベルリンに飛べたようだとか。世界を散歩する疑似体験も売りでしょ」 TK「そう。それはある。ぼくもそこが一番の売りだと思ってた時期もあったし。けど、今は、もっともっとリアルな、現実の世界がインターネットの中にあると思うけど。今、こうして喋ってることを、そのまま、1時間後に誰かが見てるかもしれないんだから。その見た人がメールをくれて、それにまたぼくが応えてってことも可能だし。メディアでありながら、そういうパーソナルな使い方もできてしまうのが、インターネットのいいところ。それを今回のリニューアルで完備したいんだけど」 TF「発信も応答もスピード感があるわけですね」 TK「例えば生放送の『ミュージックステーション』に出た後、スタジオに帰ってくると、もうメールが届いてたりして。東京のテレビでは無理なことだよね。あまりにも巨大すぎて小回りがきかなくなってきてるじゃない。ラジオだと、電話で“もしもし”って世界でしょ。あるいは、帯みたいなFAXの紙がカタカタ出てきて。それも新しくないよね。ぼく自身がテレビやラジオに出ることで、より一層インターネットのリアルさを感じたわけ。送る側と受ける側が同時進行で動いてる、時間軸みたいなものを感じてね」 TF「確かに“通信”の点でも、パソコンは革命的なところがありますから」 TK「インターネットのことをいろいろ考えていくうちに月刊誌・週刊誌・新聞のことも考えるようになって。今は3日に1度はぼく自身か、ぼく関連のアーティストの話題が載ってるじゃない。どこかに。それも1週間かけてひとつのネタを捜すなり、作るなりして、原稿を書いて、校正や校了して。印刷して。ものすごい時間と労力をかけてるわけだよね。でも、こっちを使えば、もっと速くて、もっとたくさんの人に伝えられるんだ。ある事実を知った瞬間に送信すれば、1週間もあれば100万人近くの人が見るからね」 TF「数人のチームが1週間かけて徹夜で原稿作って、大きな印刷機を回して、トラック使って書店に運んで、その見出しが『小室哲哉、結婚!』とかでも」 TK「例えば、ぼくはノート型のパソコンさえあれば、電話回線を使って、“しません”ってセンドすれば、それで終わり」 TF「でも、週刊誌よりも、こっちを見てる人の数のほうが多いので、“え? 小室さんは何をしないの?”みたいな話になっちゃったたりしてね」 TK「それぐらいのメディアになりつつある感じだけどね」 TF「単純に言えば、由緒正しい旧型車とハイテク新型車の違いかな。その新型車を見たときの驚きがインターネットにはありますよね」 TK「その驚きをここで教えてあげられると思うんだ。しかもエンタテイメントしながら。今の例えを使うなら、実際に新型車に乗せてあげて、レースコースでも走ってみせてあげるって感じだろうね。非常に危険もはらんでるって意味でも」 TF「ところで、さっき小室さんが言った、音楽の新しい伝え方の可能性って、具体的にはどういうことですか」 TK「今の一般的な感覚だと、CDが一番いい音だよね。で、ちゃんとジャケットというヴィジュアルもあって。だから、今の段階では、CDが完成品ということになってるけど、それ以上の音質とそれ以上のヴィジュアルがあれば、CD以上の完成品にもなれるってことだよね。ま、まずジャケットの写真よりも豊富なヴィジュアルはインターネットでいくらでも提供できるじゃない。音に関してもCDと変わらないか、それ以上の音質で送ることはできるから。電話回線を使って。今、ぼくが試してることも含めて言えば、アメリカと日本で一番大事なマスターテープの音のやりとりをしても、問題ないわけ。もうそのレベルまできていて。次はマスタリングが終わった、完成品の音も、その方式で送ってもらうつもりだから。6月か7月までには」 TF「それが誰のどの曲かは発表しますか」 TK「言うと思うよ。そういうことを聞く人がいたらだけどね。こうして言わなきゃ、絶対に質問されないよ。言い方としては“電話から録ってきた音”なのかな。とにかく、それと同じクオリティーの音がホームページでも流せるわけだから。著作権とか、いろいろな問題があって、なかなか流せないんだけどね。でも、今でも15秒ぐらいは送ってるし」 TF「じゃあ、アダルトビデオのモザイクみたいにして、ところどころ聞こえない状態なら、CDと同じ音質で送れるわけっすか。途中で喋るとか。で、また、黙るとか」 TK「アダルトビデオかなあ」 TF「もっとかっちょいい例えのほうがよかったですか」 TK「ま、いいけど」 TF「だったら、よかった。でも、インターネットの話してる時にアダルトビデオの例えはまずいかな」 TK「そこまで言うなら、ついでに言うけど、アダルトビデオは出てる本人が“OK”でも、法律的にはダメでしょ。でも、音楽の場合は、その楽曲の権利を持ってる本人がよければ、出しちゃってもいいわけ。その権利を放棄すればね。もしも、この音を使って、CDを作ってもいいよってところまで権利を放棄すればだけどね」 TF「ってことは、ここから送られてきた音にですね、オレが勝手にですね、歌のっけちゃってですね、デビューしてもいいわけですか」 TK「うん。そこまで権利を放棄すればね。だったら、可能なわけ。だから、まったくの新曲を作って、ヴィジュアルもつけてあげて、送ればいいわけ。曲ができた瞬間に発表できちゃうってことになる。音楽面でも、もうそこまできてるんだよ。この次は映像の問題をクリアーする段階に入るんだろうけどね」 TF「出版社やレコード会社の在り方が大きく変わる時代なのかもしれませんね」 TK「だね。中でも出版社だろうね」 TF「かつては“紙の消費量が、その国の文化度を示す”と言われたらしいけど、もう違いますよね」 TK「違ってる。でも、わかってるんだよね、メディア側の人たちも。もう水際まできてるのは。だけども、どうやってビジネスにすればいいのかが見えてないだけで。見えてるのかもしれないけど、そのためには膨大な先行投資が必要だったりしてね。だから、お金儲けを考えてる人は今はできないね。ビジネスを考えなくていい人だけがどんどん先に進める世界だと思うよ、インターネットは。ぼくは未来の図を見たいタイプの人間だから。世の中が先へ先へと進んだほうが面白いと思うから。で、自分も先へ先へと先回りしてたいから。だから、インターネットに興味があって、自分のホームページを完備するためのリニューアルなんだよ。これはぼくにとってはシンセサイザーを使った時と同じぐらい大きなことなんだ」 TF「それぐらいインターネットに目が行ってると、たとえば“小室哲哉責任編集の雑誌を創刊しませんか”って誘いがあっても乗らないですね。ぼくが知ってるだけでも、その手の企画を考えてる人はたくさんいましたけど」 TK「それには乗らないね。だって、CD-ROMのお誘いもあったけど、それもどうもね。今はメディアとしてのスピード感が物足りない感じがして。インターネット系の話なら乗る可能性はあるけどね」 TF「各出版社の企画部の人はチャンスっすね」 TK「結構ね」 TF「でも、こんなに忙しいのにできますか」 TK「興味あることはいくらでも大丈夫」 TF「そうやってどんどん忙しくなっていくわけですね」 TK「“喜んで”なんて言って、引き受けちゃうから」 TF「また、ここにきたら、一応もてなしてくれますか」 TK「別にいいけど」 TF「こんな速報のインタビューなんて初めてだから、結構楽しめました。またきます」 TK「まさに生の声だからね」 TF「本人が言ってるんだから間違いないわけだし」 TK「速いし。リニューアルしたら、もっと楽しくなると思うよ」 |