「前回に引き続き、藤井徹貫さんが、スタジオに遊びにきました。興味のある方は、読んでみてください」
1996.5.31 小 室 哲 哉 ※TF=藤井徹貫 TK=小室哲哉 AM 03:25 MAY.30,1996 TF「また、とんでもない時間に遊びにきてますけど……」 TK「仕事ないの?」 TF「それなりには仕事してますよ。音楽記事、小説、テレビやラジオの構成台本、ドキュメントっぽいのとか。いろいろ書いてますけど」 TK「一応はメディア関連の人なんだもんね」 TF「情報の不動産屋って話もありますけど」 TK「この前も話したけど、なにかと仲介業者が多いのが、今のメディアだよね。だから、スピード感がなくなってきてる感じもするし、リアルでなくなってきてるのも感じるし」 TF「循環器みたいな体系ができあがってますからね」 TK「その点、ここは産地直送みたいなものだから。よりリアルタイムに近いね」 TF「例えば、オレが不動産屋なら、TKは土地かな。それも一等地だから、いろいろな不動産屋がかかわっていて。中には勝手に扱ってる業者がいたりして」 TK「だから、ここでは直接ぼくが発言したいわけ」 TF「それにしても、TKはメディアに扱われやすいというか、ある種のカリスマなのにカリスマっぽくないところがありますよね」 TK「他にいないんじゃないの、今のぼくみたいな存在が」 TF「今までいなかったって話もありますけど。E.Tみたいなものですよ。今まで謎のベールに包まれてる人はいても、わざわざ謎のベールの内側から出てきちゃう人はいなかったし。こういう場所を設けること自体、カリスマ化とは反対の動きでしょ」 TK「なんで?と思うのかな」 TF「なんで、あんなに、ヒット曲が作れるのか、とか」 TK「なんで、あんなに、お金を持ってるのか、とかね」 TF「高額所得者のランキングとか出ちゃうと、そうなりますよね」 TK「なんで、あんなに、稼いでるのか、とかね」 TF「才能をうらやむよりも、お金をうらやむ方が面白おかしいですもんね。才能はどうしようもないから」 TK「不思議なんだろうね。だから、知りたいんだろうね。わかるけど。不思議を不思議じゃなくしたい気持ちは。解明したかったり、からくりを探りたかったりするのは。“こういうことなんだよ”と言いたい気持ちは」 TF「オレ思うんですけど。TKの音楽についても、キャラクターについても、みんなが語れるんですよ。きっと。好ききらいでは終わらないような感じ。“わからない”とは言わないような」 TK「キャラクター的には強くないけどね。強くないって言うよりも、キャラクターなんてないに等しいでしょ。と思うけどね。例え話に出して悪いけども、ジャイアンツの長島さんは成績よりもキャラクターが上回ってる人でしょ。現役時代の成績もすごいけど、だったら、もっと上の人はたくさんいるわけじゃない」 TF「ですよね。ホームランだって山本浩二の方が上だったと思うし。きっと生涯打率だって落合の方が上だし。数字的には、どれも一番じゃないのに」 TK「だけど、キャラクターは圧倒的に一番だよね」 TF「聞いた話ですけど、長島さんがゴルフの帰り、車の中で、一緒に乗ってた人に聞いたらしいんですよ。“ここはどのあたりですか”とか。ちょうど甲府あたりだったので、運転してた人が“山梨です。甲斐の国ですね”と答えたらしいんですね。そしたら、長島さんが“ほ〜。甲斐ですか。だったら、武田信玄のフランチャイズですね”って言ったそうですよ」 TK「そういうキャラクターは、ぼくにはないよね」 TF「長島さんとは違う種類のキャラだけど、TKもキャラクター強いと思いますよ」 TK「よく知ってる人は知ってるってキャラクターでしょ。だけど、一般的じゃないよ。だから、それを解明しようと思って書くのかもしれないけど」 TF「書かれる方からすれば、すごい迷惑だと思うけど、“書きたい”と思わせるフェロモンを発散してる人って気もするけど」 TK「やっぱり謎が多いのかな。わからないことが多いのかな。だから、憶測で書くんだろうし。わかりすぎてて、簡単だと、書いたからって、読んだ人が“ヘェ”とは思わないでしょ。説明されても、“知ってるよ”で終わりじゃん。おどろかないじゃない」 TF「“小室哲哉って実はこうらしいぜ”なんて話題だと、日本中の中高生から大学生まで一応は知っとこうかなって思うと思うし」 TK「その話題で若いビジネスマンでも話せるかもね。前回の“焼きとりの屋台”じゃないけど」 TF「でも、あらゆるTK情報の中で、ここでの情報がまぁ一番リアルってことですよね」 TK「事実という意味でもリアルだし、リアルタイムで速いって意味でもリアルだよね。メールの中にも、どこそこでこんな話をしてましたけど本当ですか、とかの素朴な疑問もあるから、それにも直接答えることだってできるわけだし。ちゃんとメールにも目を通してるから。今、ここのメールがすごく面白くなってきてるんだよね。いたずら書きも少なくなってきて。内容のあるものが増えてる」 TF「メールで思い出しましたけど、浅倉大介君のところに謎のメールを送ったらしいですね。大ちゃんが“TKから謎のキーワードが届いた”って言ってましたよ」 TK>「ちち」 TF「そう。“ちち”とだけ書いたメールがきたので、おどろいたらしいですよ。で、これは何かのキーワードに違いないって考えて。“ちち”は父か、乳か、Chichiって名前の女の子か。いろいろ考えたらしいですよ」 TK「ついに解けなくて電話かかってきたよ」 TF「単なる間違いだったんでしょ」 TK「うん。打ってる途中で電話が鳴って。それで話してたら、操作ミスで送っちゃったんだよね。で、“ちち”だけが飛んでっちゃって」 TF「これが普通の手紙できたら、完全に暗号ですけどね」 TK「大介からの返事は“母の日”にきたよ。“ちち”に対抗して」 TF「やるなあ。大ちゃんも。でも、TKと大ちゃんがメールの交換してるのは見えますよね」 TK「やって当たり前の人しかやってないってことかね。大介とか、マークとか。でも、もっと増えないかな、と思ってるところなんだけど」 TF「木根さんはどうですか。最近、とうとうパソコン買ったそうですよ。TKと木根さんが電子メールの交換をしてるっていうのは意外でしょ」 TK「でも、木根さんは、まだ住所録の段階なんでしょ」 TF「持ち運べない電子手帳状態ですか」 TK「別に顔見知りだけじゃなくてもいいんだけどね。これでも時々はメールへの返事は送ってるよ。本当に簡単で申し訳ないけど」 TF「普通の人というか、一般の人への返事ですか」 TK「そうだよ」 TF「読んだ瞬間に返事が送れるし、送った瞬間に届いてるから、返事を送る気になるんでしょうね」 TK「そういうツーウェイも、ここのいいところだと思うよ。インターネットだからできることって、まだまだたくさんあると思うけど」 TF「なんか今わかった気がしたことがあって。前に“なぜ、このいそがしい状況の中、わざわざロスでレコーディングするのか”みたいな話を質問したことがあったけど。こういうリアルタイムのメディアが身近にあるからなんですね」 TK「それもあるよね。骨組みは東京で作ったとしても、その音が1度ロスまで行って、そこで何かの作業が行われて、また東京に帰ってくる、そういうスケール感が欲しいって話だったよね。ひとつは打ち込みだから、手軽に作れる音楽って印象があることへの抵抗もあるし。ひとつはレコーディングしてから発売されるまでのタイムラグを埋めるため。だから、今できる限りのことはしたいって気持ちもあるし」 TF「CDというメディアが、リアルタイムではないからこそできることをしてるって感じなんですよね」 TK「意識して手間ヒマかけてるよ」 TF「それは“今の小室哲哉だからできる”とか、“豊富な制作費があるからできる”とか言われることかもしれないけど、やっぱりお手軽に作って、はい、ヒット、とは行きませんよね。なにげに聞こえてるところにも、最新の音が入ってると思うし。TKからすればオレも“なんで?”を解明したい人間のひとりだと思うけど、なぜ小室哲哉の音楽がヒットしてるのかを知りたかったら、まずは今の音楽シーンの傾向を見ないとって気もしますけどね。で、次の流れを予測する力と、各場面でのジャッジが鋭くて、方向転換が素早いんだと思いますけど」 TK「それが普通の人の考えだろうね」 TF「違いますか」 TK「どうだろう」 TF「前にオレは“小室哲哉は二人いる”という本を書いたことがありましてけどね」 TK「そういう話でも、そのうち本当の話として記事になるんじゃないの」 TF「こういう生の会話が、すぐ世の中に流れていくのって、本当にふたつの意味でリアルですよね」 TK「だから、ここではいろいろなカタチで、ボクの声を直接送りたいんだよね。それが一番たしかだし……」 |